フランスで学んだサービスとは


先日帰国した。


ワーホリ一年を通して飲食店のホールスタッフとして働いたのだが、ここまで楽しく働くことができ、自分自身が成長できるとは予想もしていなかった。






振り返ると初めはパリ。




当初の僕は正直揺れていた。

「フランスでカツサンドを売る」そう言って日本を飛び出してきたもので、

(この話についてはいつか詳しく話したい。)

ビジネスの右も左も分からないままどうしよう。




そんな中、とりあえず生活するために働かない状況であった選択肢の一つが飲食業。



フランスのレストラン業界を全く知らないままCV(履歴書)を持ち回った。


→今となって思い返せばこの時の行動が大きく僕を分けたと思う。





当時一緒に住んでいたのがセネガル人の家族。

そのお父さんの言われるがままにCVを持ち歩いた。



5区6区あたりのパリの中で良いとされる地域に狙いを定め、ひたすらレストランを飛び込んで回る。


 



”plongeurでもいいので雇ってくれ”


  



言われた通りやった。

すると笑われたり変な顔をされることもあった。




のちに気付いたことだが、Plongeur=皿洗い

あまり書きにくいことだが、皿洗いの仕事はフランスで黒人の方々がやるのが大抵となっている現状。





そんなことも知らず飛び込んで回り見つかった職場がCafé Louise。



パリ6区サンジェルマン通り。

向かいにはCafé de Flore、Les Deux Magots、お隣はLippというようにパリのCafé文化を語る上で欠かせない有名店に囲まれたエリア。




ここで働けたことがすごい大きかった。

サービスに対して持っていた概念が180度変わった。






フランスでのレストラン業界の階級やしきたりも一から肌で学んだ。


飲食業界のピラミッド

参照: http://technoresto.org/tr/brigade/




始まりは料理をひたすら決まった場所に運ぶだけのRunneur。(いわゆるランナー)



お前みたいな下っ端に客との接触なんて許されるものか。



の如くこき使われ走るだけ。







これが悔しくて悔しくてたまらなかった。



CV上は一応日本で5年程の飲食経験があるが、Parisでそれは何も意味をなさない。






Commis(アシスタント)となりお客さんとの会話や接客ができるようになり、その時には早くChef de Rangとして仕事をしたいと日々思うばかり。


(Chef de Rangに関しては過去に少し書いているので気になる人はこちらから。)



当時、階級を正直あまり理解してなくとりあえずガムシャラに鍵をくれと言っていたことが良かったのかもしれない。

※鍵とはChef de Rang以上の役職に与えられるもの。




実力は多分追いついてなかったのだと思う。


だが何も知らないことをいいことに鍵アピールしていたら、Responsable(マネージャー)のFranckyが周りのマネージャー陣を説得してくれ、

ありえないスピードで鍵を与えてくれるようになった。

 



そこからはもう毎日が勉強。

相当失敗し怒られたが日々楽しかった。








その中でやってきた大きな経験がCafe de Floreでのessaie(試験)


ここ数年で覚えている中で、一番に悔しく泣いて逃げ出したかった。





パリで間違いなくトップクラスのギャルソンが集まるカフェ。そんな伝統的な格式の高いカフェで働けるチャンスがきた。


実力なんてこそないとはわかっていたが、Floreで挑戦できるだけでもすごい経験。




挑戦する人たちが尽く耐えれず後を去っていくと周りから散々聞かされ、

当然Louiseのスタッフ達からはやめとけ。無理な挑戦と言われた。




そんな状況でも一人”お前ならできる”そう言ってアドバイスをくれてのがFrancky。








メニューを事前に貰い、頭に色んな情報を入れて望んだが、、



結果はもう前述した通り、今までにない屈辱を味わった。







一番衝撃だったのがトレンチのレベル。

Le niveau de plateauと言われるが、トレンチの扱い方が何もなっていなかったことを知った。



彼らは8時間ぶっ通しでトレンチを持ち続ける。

腕を下げる暇なんてない店だ。

特にFloreは狭いバックヤードのところでもトレンチの上で作業をし、バッシング、ワインの補充、カクテル作りなど全ての一連動作をトレンチ上でやる。


 



そこに加えて全ての注文を記憶しミスなんて許されない。






僕は、バックヤードで何個グラスを割ったか。

腕が引きちぎれそうで、感覚がなくなるほどパンパンになり、ほんとに泣き出したいほどキツかった。




書き表せないほどのミスをし、本当に辛かった。








それからLouiseに戻りサービスを日々磨いた。

特にトレンチの使い方を色々研究し練習した。


この辺りからサービスの真の楽しさがわかってきたのだと思う。

スピーディかつ的確に仕事を回せることが前提で、そこにできた余裕でお客さんとの会話も楽しむ。




バシッとその日のサービスが終わった時、めちゃくちゃ気持ちが良い。

また成果が比例する形でチップとして貰えるとなおさらハッピーに帰れる。



4月までそんな日々を過ごした。








パリでの経験を経て次に働いたのが、

南仏バカンス地のLe Ruban Bleu 




ここでの経験を一言で表すと、お客さんを楽しませることについて考えさせられた。



演芸をするわけでもないので楽しませるというより、いかに心地の良い空間を作り楽しんでもらうか。


こちらの方が正しいかもしれない。



  


ビーチレストランなのでパリと客層が異なる。

時間に急かされている人なんて滅多にいない。

  


なので、スピーディーなのはもちろんだがお客さんの幸福度が上がるのは、ちょっとした会話やちょっとしたパフォーマンス。

笑いを取ったり興味を引いたりで、お客さんから名前を聞かれるまでに距離を縮めようとした。



こいつはパフォーマンスのプロ




当初2つのポストで仕事の提案があったが、最終的に僕が選んだのはLoungeでのお酒提供。

レストランよりお客さんとの距離が近く、主にコミュニケーションやコンタクトの取り方を磨くことに特化した。




仕事内容がシンプルなので、技術的に求められることはそこまで多くはない。 



トレンチを上手く使い手際よく飲み物を提供する。


めちゃくちゃシンプル。




しかし逆にドリンク提供だけでいかに他の飲食店や他のサービスマンと違いを付けるのか考えてみると意外と深かった。
 


瓶の開け方一つこだわった。おつまみ一つにしてもそう。やる事がシンプルな分、色々試行錯誤してお客さんに楽しさを提供する。




パリで経験した頭をめちゃくちゃ使う仕事ぶりとは違い、人間力を磨く素晴らしい経験だった。




いろんな人に出会い、名前を覚えてもらい、通ってくれた。

働いている僕自身が楽しませてもらえたので、満足のいくサービスができていたのだと思う。








そしてニースで日本人オーナーのお店2カ所で働く。

まさにこの1年の集大成であった。




短期での雇用ではあったが自信はついていたので、

即戦力になれると思うので働かせて下さい。そう言ってCVを持ち回った。

※皿洗いでもと言っていた1年前とは180度変わった態度




でも正直、お金はあんまりどうでもよかった。

ここでは自分を試してみたかった。

技術的にも精神的にもこの1年の成果を。





  

最終日Ma yuccaのオーナーゆかさんから手紙を頂いた。

当初提案してくれていた額から大幅に給料を上げてくださり、そこにメッセージを添えてくれていた。





僕の働き方がお手本のような形で周囲に良い影響を与えたと評価して頂いた。

 


今まで貰った給料の中で1番嬉しかった。
意味があり重みのある給料。



このお店で働けて良かったと心から思えた瞬間であり、何よりこの1年サービスを学んできたことを誇りに思えた瞬間であった。













下記、仕事の出来るサービスマンになる為に。

僕なりに3箇条をまとめてみた。



1. Bon mémoire

2. Coup d'oeil 

3. Jamais les mains vides 



スピーディーかつ的確にサービスをすることは当たり前という前提上、

この三つが仕事の良し悪しを変える大きな要素だと僕は考える。




一つ目は記憶力。


ここで意味する記憶力は2つある。

①注文やテーブルの状況を瞬間的に記憶する力

②お客さんとの会話や共有した情報、その時に飲んでいた飲み物や食べ物を長期的に記憶する力





①は仕事をこなすための超瞬間的な記憶力。


カフェやブラッスリーでは複数卓の注文を記憶する必要があるし、効率よく動くためには各テーブルの状況を常に把握、記憶する力が求められる。

 

この短期的に集中し記憶する力はめちゃくちゃ大事だ。


覚える事が多い時は動きながら小声で繰り返したりしてでも、とりあえず直近で必要な事を頭にねじ込む。



②はどちらかと言えばプラスアルファ。


2回目に来店してくれた際にお客さんのことを覚えているといないとでは大違い。 


頭で覚えるというよりは感覚的。


夕暮れ時のフルーツ系モヒートを飲んでいた姿が似合うな。とか会話してなくても何となく情景(雰囲気)で記憶するようにしていた。






この2パターンの記憶力があると思い、できるだけ多くの情報を時と場合に分けて記憶する力があればまたサービスが変わってくる。


※名前だけは覚えるのが苦手で、流石にメモを取っていた。






 

二つ目は目配り。   


いかに周りを把握できているか。これに尽きる。 


担当しているテーブルの状況(シルバーとお皿、調味料、グラスの飲み物の量、食事スピードの確認)をきっちり把握する。

+レストラン内の状況(特にキッチン)を把握し、先を読み動く事が求められる。



フランスでは日本と違い、お客さんから手をあげてサービスマンを呼ぶことはある意味ご法度。

なのでサービス側がお客さんの視線や仕草を察知し、いち早く伺いに行かなくてはならない。




この目配りができている人とできていない人は、

サービスの質と俊敏さにひと目でわかるほど大きな差が出る。  



  




三つ目、手ぶらで帰ってくるな。


バックヤードとホールの行き来をする中で、一回ホールにでたら何か持って帰ってくる。

すなわちバッシングやワインサーブ、視線を感じるテーブルに出向くなどすることは山ほどある。


前述の記憶力と目配りがあってできることだが、

1つのために何回もバックヤードを行き来しているようじゃ、何十人を回すなんてできない。



要するに無駄を省く。



聞こえは簡単なようだが、習慣化するまでは意識的に経験することがベストだと思う。

混雑時注文がどんどん溜まれば余裕がなくなってくる。日頃から大きくこの3つを意識することによって、いかに無駄を省きスピーディに仕事をこなせるようになっていくと思う。
 

そして自ら作った空きの余裕時間で、より良いサービスの為にと動ければ素晴らしいのではないか。








パリではギャルソンの仕事ぶりを目当てにカフェするお客さんは多々いる。



つまりサービス側が主役という事。 




テクニック的な事や上にまとめた3箇条など、色々学ぶことはあり非常に深い。

しかしサービス側が主役というプロ意識こそがフランスでのサービスで大切な事なんだと思う。






こうやって一年を振り返ってみたが、僕がどこまで成長できたかを言葉で表すのは難しい。

だが少なくともこれだけサービスのことを熱く語れるようになったことは、この仕事に対し理念を持ち好きでやれた結果であり収穫である。





フランスでワーホリを考えている人に向けて、

もし飲食業を視野に入れているのであれば、僕はフランス式サービスを学ぶことを強くお勧めする。





A la française

à la française(アラフランセーズ) フランス流に生きる25歳の冒険

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